思いやりと生きる力

わたしを ぎゅっとして わたしを 見つめて わたしを 聞いて わたしを 呼んで

〔 新しい人間教育術の構築 〕 ~(社福)童心会の目ざす人間教育 ( Innovation of Human Education and Care)

 私は昨年(令和元年)5 月の(社福)童心会の理事長研修の中で、保育者仲間に次のように問いかけました。

保育所は今、何をするところですか?」

そして
保育所は今”生きている喜び と 学びあう心”を育むところ」

であると研修を通して仲間たちみんなで再確認し合いました。

 1990年代以降、世界的に脳神経科学は素晴らしい進化をとげ、日本でも 1995 年京都大学fMRI (磁気 MRI が導入されてからは 乳幼児の教育とケア( Early Childhood Education and Care)も人間科学の領域の中ですごい発達を遂げています。


 アメリカで発売されたベストセラー育児書の題名も次のようになっています。
いまの科学で「絶対にいい!」と断言できる〔 最高の子育て ベスト 55 Zero to Five (原題 〕(トレーシー・カチロー著ダイヤモンド社 2016 年 11 月発売) 著者はこの本の中で「本書は主に6 歳までの時期を重視しています。人生のなかで最も変化が大きい時期だからです。動作、言語、情緒、運動能力ー脳の90 %は生後 5 年間に発達するのです」と科学的根拠に基づいて断言しているのです。
 私はこの本を読んでみて、改めて日本の保育や子育てを振り返ってみました。

 

〇保育
日本の保育は養護と教育であるといい、乳幼児を保護し教え育てること

〇子育て
あやすこと、世話をすること、託児、養育、子守など、預かる乳幼児の面倒を見ながら養育すること

と考えていたように思います。

 

 本書のかかげる8 つのコンテンツは 0 歳 生後 2 ヶ月 から私たちがヒトとして生きていく上で大切なテーマであると言っています。

 

〔本当に大切なこと 〕


1.愛情     ー 安心感が子どもの「脳」をぐんぐん伸ばす
2.語りかけ   ー 言葉のシャワーが「 IQ 」を上げる
3.生活習慣   ー 「 記憶力 」 と 「 集中力 」 が 上 がる 食 べ 方 ・寝方
4.遊び     ー 「思考力」と「想像力」をみがく楽しい方法
5.つながり   ー 親との交流が「心」と「体」を強くする
6.   しつけ    ー 叱るより、ルールで「スキル」を身につける
7.動く     ー 動くことで「頭」がよくなり「健康」になる
8.スローダウン ー 時間を止めて、人生をフルに味わう

 

改めて、(社福)童心会の保育実践の特色を科学すると次のようになります。

1.Starting Smart (人生の始まりこそスマートに)

~人間としての生きる基盤 愛された育ち・だきしめ言葉)~

1)養育 =生命の保持=愛された育ち=子どもの権利
    =応答関係(サーブとリターン)=アタッチメント形成
2)Care =情緒の安定=だきしめ言葉=養育者の義務
    =情愛的接触=応答関係(サーブとリターン)=アタッチメント形成

 

2.Starting Carriculum (学びのはじめ)
~五感を刺激する 0 歳からの人間教育~

興味  見て 倣い(模倣) 観せて 学び
関心  聞いて 考え(思考) 聴かせて 習う
好奇心 触れて 知って(知覚) 触って 記憶する
風に 薫りを 嗅ぎ  五味・五色・五感に 四季を味わう

 

3.心に残る生活体験学習


1 わらった数     一番 

2 だっこされた数   一番 

3 やさしくされた数  一番 

4  あそんだ数       一番

5  でかけた数            一番

6  チャレンジした数  一番

 

 私は「最高の子育てベスト 55 」母親的な役割と子どもの間で行われる家庭教育と、(社福)童心会の人間教育を比較してみました。
 長い間臨床保育の現場にいる私としては、ヒトは本来親だけでなく、今までのように保育者仲間や村人としての保護者、地域親が育ての親となって共同で子育てを行ってきたことを大切にしていこうと思いました。
 そして「学びのはじめ」「心に残る生活体験学習」の中にある養育者や仲間たちが
環境との関わりの中で、ヒトが生き方を学んできたことも忘れてはならないと思いました。
 ある天台宗阿闍梨あじゃり)が次のように言っていました。

一日一生、一日を一生のように生きよう!

明日からまた新しい人生が始まる。さぁ、 これからどう生きるか!

令和2年4 月 吉日

 

社会福祉法人 童心会

理事長 中山 勲

 

〔 泣く子の手当は だきしめ言葉 〕 ~新しい母性・父性感情の考え方

 ある日の朝、A 子さんが泣きながら登園してきました。
 私はすぐに担任に知らせ「泣く子の手当はだきしめ言葉ですよ!」と手当の仕方を伝えました。

 

 私たちは戦後70有余年の時間を経て「三世代にわたる世代間連鎖」から多様な家族の形態、そこから生れた子どもへの虐待、母親のうつ、歯止めのきかない少子化現象など子どもにまつわる問題は深刻さを増すばかりです。


 子ども達も苦しんでいます。
 いじめ、不登校、不安障害、引きこもり、抑うつ、薬物依存や自殺など、自分と他者の心を理解することに苦しみ、対人関係に起因する心の問題を抱える子どもたちの数は増え続けるばかりです。


 今の時代を振り返ってみると、子どもだけが苦しんでいるのでもなく、保護者や子育て仲間たちだけでもなく、保育者仲間たちまでも苦しんでいる人たちが増えているような気がします、と認知神経科学の先生たちも指摘しています。


 このような現状を見ていると、昔からいわれてきた母性(母性が持っているとされている、母親としての本能や性質。また、母親として子を生み育てる機能・大辞林より)をどのように解釈したら良いのでしょうか。


 ブリタニカ国際大百科事典では、次のように書いてあります。

 「母性は、本能的に母性に備わっているものではなく、一つの文化的、社会的特性である。したがって母性はその女性の人間形成過程、とりわけ3~4歳ころの母親の関わりによって個人差がある(以下略)」

 

 「ヒトの発達の謎を解く」(比較認知発達科学者明和政子・ちくま新書 の本の中で、「ヒトは胎生期から学びはじめヒトが獲得してきた生存戦略は、養育してくれる可能性のある対象を生後すぐに見抜き、その関心をできるだけ長時間引いて養育を受ける機会を多く得ることだったと考えられます。」と著者は言っています。


 私は保育所保健だより3月号に〔たくさんの養育者にかこまれた 幸せな人生の始まり 〕というコメントを書きました。

 まだ狩猟採集型の文化を持つアフリカのアカ地区では、母親を主な養育者としつつも、およそご近所の20名位の人たちが子どもの主な養育に関わり、そして実際には母親を含む5~6人にしぼられていくそうです。
 ヒトは本来血縁だけでなく、非血縁を含む養育者が共同で子育てを行ってきた(アロマザリング共同養育)という見方が歴史的に伝えられています。
日本の1950年代頃の 子育て環境も”助けあって生きる”このような社会だったはずです。
 だから私たち(社福)童心会の人間教育(Care and Education)「保育所から始めるヒト創り」は次のようになりました。

 

童心会の保育方針


・わたしをぎゅっとして
・わたしを見つめて
・わたしを聞いて
・わたしを呼んで


 このようなふれあいが、乳児の学習動機を高め、主体的な行動を引き出すのは、養育者からの情愛的接触なのです。
 私たち(社福)童心会の仲間たちは一日7回以上「だきしめ言葉」を伝えあい、実践し、励ましあっています。
 それは養育者や他者と体を触れ合わせる経験が、発達初期の認知発達と情動と感情の学習(心身の健康)につながっていることを確信していたからです。


 最後に私は、母性は女性の人間形成過程、とりわけ3~4歳頃の母親とのかかわりによって個人差がある、という言葉が気にかかりました。
 柏しんとみ保育園に昨年の4月ばら組(0歳児)に入園してきたB子さん(現1歳10ヶ月)の家にポコちゃんという赤ちゃん人形が生れました。B子さんは毎日毎日お家で小さなお母さんとしてぽこちゃんの胸を「トントン・ネンネ」といいながらあやしているのだそうです。ママは喜んで「先生B ちゃんにはもう母性感情が芽生えているのですね!」とうれしそうにお話ししていったそうです。
 私たちの訓(おしえ)、「愛された育ち・だきしめ言葉」を”見て倣い、観せて学ぶ”を味わった人たちだけが身につけられる母性・父性感情が生れるものだ、と私は確信しました。
 改めて「見て倣い、聴いて習う」ということが人間の生きるみちしるべ(道標)であることを知り、すべての出来事を年齢だけでなく歴史的な視野に立って一つの文化的・社会的特性として見つめ、伝え続けていかなければならないと私は強く 思い知らされました。


        令和2年3月 吉日
        社会福祉法人童心会

        理事長 中山 勲

〔 保育所から始める村づくり 〕

 昔から言われていた”3 歳児神話”というお話。
つい最近まで、いや今でも3 歳くらいまで赤ちゃんのお世話は母親が主な養育者となって育児に専念しないと心も身体も健やかな子どもの成長を望むことはできない、と言われてきました。いわゆるアタッチメント(愛着形成)と長い間言われ続けてきた3歳児神話という 今ではまぼろし(幻)のお話です。 それがつい最近の脳神経科学のエビデンス(科学的根拠)では「アタッチメントの誤解」だと言うのです。

 

新しい考え方では、赤ちゃん一人育てるためにはその子の周りには20人くらいのご近所さんが居て、その中で 6 人位は主な養育者となって子育てに協力し合う村人になるべきだというのです。昔から日本の社会にもあった教育力の大切さを今さらのように伝えていることを忘れてはならないのです。


 昔からあった日本の教育力


1 三世代が住む大家族の教育力

2 ご近所の教育力

3 子ども社会の教育力

4  学校の教育力

5  地域社会の教育力

 

 私は前にも書いたことがあるのですが、アフリカのある村の諺を思い出します。”子どもを一人育てるためには、一つの村が必要だ!”と言っているのです。

 

今保育園には、五感を刺激する0 歳から 6 歳までの就学前の子どもたちと専門の研修を受け続けている保健・医療まで含めた保育者仲間たちがふれあいと見守りを続け、同時に保育園OB の小学生・中学生・高校生なども年中行事には集い、保護者の皆さまと共にクラスや保育園の育ての親となって子育てを助けあっています。
 そして(社福)童心会の仲間たちは、保育園を一つの家として、仲間たちを家族の一員として認めあっていくことが大切な生き方だと思っているのです。
 だから私たち社会福祉法人童心会の人間教育の理念は次のようになりました。

「(社福)童心会の人間教育の理念」


子どもたちの現在(いま)を最も良く生き、望ましい未来を作り出す力の基礎を培うために、時代の変化に対応した保育を創造し、実践していかなければなりません。
そして子どもたち一人ひとりが、人格を持った人間としてお互いが認められ“生れてから死を迎えられるまでの一生”を人間教育の場として捉え「人間として如何に生きるべきか」を学ぶための原体験を創ることが、人間教育(保育)の理念であります。


そして(社福)童心会の「新しい保育の創造」が「村づくり町づくり」につながることを祈りつつ活動を続けています。

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                    「思いやりと生きる力」
                    令和2 年 2 月 吉日
                    社会福祉法人 童心会
                    理事長 中山 勲