思いやりと生きる力

わたしを ぎゅっとして わたしを 見つめて わたしを 聞いて わたしを 呼んで

童心会の運動会追想記 ~運動会を通して学んだこと

 10月23日発行された読売新聞の記事の中で、「全国の小中高と特別支援学校で2019 年度に認知されていたいじめが前年度から7 万件近く増えて 61 万 2496 件に上り、過去最高(小学校は 5 年で4倍だったことが22日、文部科学省の問題行動・不登校調査でわかった。」と書いてありました。


 私たち(社福)童心会の保育者仲間たちは、このようなこともあろうかと保育園での毎日の生活や、毎年行われる行事などを通して「ヒトとしてどう生きるべきか」を学び続けてきました。
 子どもたちと私たち保育者仲間たちは、ばら組さん(0歳)の時代からさくら組さん、そして生命が終わる時まで忘れてはならない

「生きる目標・道しるべ」

を仲間たちと育みながら、保護者の皆さんや子育て仲間、地域社会の皆さんに発信し続けてきたのです。


それは

「思いやり(慈悲)と生きる力(智慧)」

です。


私たちは子どもたちと一緒にばら組さんの時代から、

「五感を刺激する0 歳からの人間教育」

を目指して生きる目標・道しるべを求め続けてきました。

 保護者の皆さま、私たちの発信し続けてきた”シグナル”を受け止めていただけたでしょうか?私たちはこのようなコロナ禍の時代の中でも変則的な運動会になりましたが、今年も無事に終わりました。その裏には各学校の校庭や体育館の提供、地域の人たちの尽力、保護会やファミリー会の役員さん、柏さかさい保育園の親父の会などの多大なるご協力があった賜と心から感謝しております。
 そのお陰様に報いようと私たちは子どもたちと必死に練習を繰り返しながら”ヒト創り”に励んできました。
 私たち童心会の生活や行事を通しての目標は次のようになっています。

f:id:doushinkai:20201110145340p:plain

 改めて今、このコロナ禍の中での今年の運動会を追想してみますと、本当に子どもたちにすまない気持ちになります。
 しかし「サピエンス全史」を書いたイスラエル歴史学者エヴァル・ノア・ハラリ氏は1349年から始まったペスト、発疹チフス、インフルエンザ、エイズエボラ出血熱など世界のパンデミックの歴史をふり返ってみてホモ・サピエンス(賢い人)は30 万年もの間、環境に対応して生きぬいてきたと言うのです。
 そんな中で「今後最も重要な協力の形態は情報の共有だ」とあるインタビューに答えていました。また現マイクロソフト社長のブラッド・スミス氏は「リモートワーク一色になっても人々が集い、ともに過ごす場も必要だ。何かを考えたり、働いたりする機会は欠かせない。」そしてまた『 人生は「生産性」をあげることだけがすべてではない。「創造性」や「仲間づくり」も大切である。この三つの要素のバランスの取れた未来が必要だ。人々のつながりを促進し、創造性や仲間づくりを支援するテクノロジーが求められるはずだ。だが、テクノロジーにも限界があることも忘れてはならない。』 とも言っていました。


 私は今年の(社福)童心会の親子運動会を通して皆さまに必死になって伝えたメッセージがありました。
「このようなコロナ禍の時代の中で、働き方や人間関係、生活に対する価値観やライフスタイルまで今までの時代によりさらなる多様性が求められる社会になりますが、これからの時代の宝物は子どもであり、仲間たちである」と声高らかに伝えました。
「だから、ご近所の人間関係も失われてしまった今、これからは童心会の保育園が町となり、村となり家となって、私たち一人ひとりが家族のようなつながりを広めていく
べきだ」ともいいました。
それは生命を授けられた0 歳の時から、生きる目標・道しるべとして
「思いやりと生きる力」
を身につけてきた私たちの尊い財産だったからなのです。


いみじくもひまわり組さんのあるお子さんが、お泊まり保育のミーティングで

「やさしくするってどういうこと?」

と先生が聞いたら、すかさず

「困っている人を助けてあげること」

と言ったそうです。

どうか皆さま、これからもずっとずっと(社福)童心会の保育園が子どもたちや保護者の皆さま、保護者仲間たちの心のよりどころになることを祈っています。
今年もまた、ご協力をいただき本当にありがとうございました。

令和2年11 月 吉日

社会福祉法人 童心会

理事長 中山 勲

〔 今、子どもの養育環境を考える!~アフターコロナに備えて~ 〕

 私は先月(9月号)の法人だよりの中で、今私たちに関係する人間科学の比較認知発達科学というアプローチから

「人の心が生れる道すじ~四つの基本的事実~」

を学びあいました。


 その中で、私は(3)(4) 項目に書いてあった「養育環境」について書かれていた科学的見識を、保育の現場にいる実践者として再確認してみました。


(3)ヒトらしい心を発達させるのは 、他者からの積極的な関わりを特徴とする ヒト特有の養育環境である 。


(4)ヒトらしい心を育む環境は 、ヒト特有のはたらきによって成立している。 ヒトは自分の心だけでなく、次の世代のヒトの心の発達を支える「環境」としての役割も果たすよう進化してきた動物である。

(まねが育むヒトの心・明和政子/2012 年 岩波ジュニア新書)


 私は法人だより9 月号を書いて、さらに何度も何度も読み返してみて、(社福)童心会の養育環境と照らし合わせてみたとき、「ヒトらしい心を発達させるのは、ヒト特有の養育環境(3) と、次の世代のヒトの心の八つを支える『 環境 』 としての役割も果たすよう進化してきた動物である( 4) 」という考え方では足りないことに気付いたのです。

 

このように判断を迷っていたとき、奇しくも次のような新聞記事に出会いました。


『9 月 6 日に発表された国連児童基金ユニセフ)報告書は OECD経済協力開発機構)、EUの加盟国、国連などの統計を用いて分析。

 

 一定のデータが集まった38 カ国を「精神的な幸福度」「身体的健康」「学力、社会的スキル」の3 分野で指標化した。使われてたのは 2015~2019 年の統計で世界的な新型コロナウィルス流行前。 』


 その結果、日本の子どもは生活満足度の高さが「精神的な幸福度」が37 位と最低レベルでした。
 教育評論家の尾木直樹さんは日本の学校現場を「いじめ地獄・家庭内不和も原因と表現し、子どもの自己肯定感が低く、幸福感が育たないのは必然的だ」と指摘していました。


 また身体的健康では、5 ~19 歳の肥満の割合で発表していますが、日本が 14 %で 1 位でした。
(ちなみに童心会の肥満度は3 %未満。)
 最後に学力・社会的スキルでは日本は27 位。 読解 と数学力は 5 位でしたが、
「すぐに友達ができる」と答えた15 歳の割合は最下位クラスの 69 %でした。


 改めて、「ヒトの成り立ち」を考えた時、今の新しい人間科学の世界では、胎生期の28 週くらいになると視覚、聴覚、体制感覚は機能していると言われています。
 だから私は「ヒトらしい心を発達させる前に私たちが何を為すべきか」を考えてみました。


 今の新しい科学的根拠に基づく考え方では、大人を含む養育者との身体の触れ合いが促す乳児期の脳発達の重要性が叫ばれています。即ち乳児期の他者(主に養育者)との新生児からの受容的な応答関係と身体的接触が大切であり、触れ合う機会の少なさは発達予後(脳発達の感受性期)に影響するといわれています。


 また私たち(社福)童心会人間教育の根本的な理念である

「五感を刺激する0 歳からの 人間教育」

に謳われているようにヒト特有の五感を刺激する乳児との関わりの重要性も科学的に実証されているのです。
 だから私たちは改めてヒトの心のはたらきの発達とその進化的な基礎を見つめた時、比較認知発達科学からのアプローチを見直さなければなりません。
即ち

「胎生期から新生児期にかけて、ヒトの身体や行動、心のはたらき、知覚、認知機能は連続的に発達する」

というエビデンス(科学的根拠)を忘れてはならないのです。


 この意味からも不幸にして在家庭時における産後うつや育児不安から生れる”不適切 な 養育 マル ・トリートメント)”に対する保育所における新たな役割を創造しなければならないと考えました。


 だから(社福)童心会では保育だけではなく”療育( Care mind )”を目指してきたのです。
 ちょっとむずかしくなりましたが、ひと言で言うと、ヒトの心は他者と身体を触れ合わせることで発達初期の認知機能を発達促進すると明らかにされています。


 今、世の中はこのコロナ禍の中にあって育児不安や家庭内不和など不適切な 養育 マル ・トリートメント)が行われているといわれています。
 私たち(社福)童心会はこの様な社会的環境の変化を捉え、ウィズコロナ、アフターコロナの時代に備え、心の準備を怠っていません。


 (社福)童心会のいつもの訓えなのですが、保育者仲間や子育て仲間には変わらずに
”愛された育ち と だきしめ言葉”を大切に育てていきます。
 私たちの合い言葉は

「ぬくもり・ふれあい・おもいやり」

です。

コロナ禍の解決の兆しも少し見えてきたように思いますがもう少しの”ガマン”です。がんばりましょう!!

   令和2年10 月 吉日
   社会福祉法人 童心会
   理事長 中山 勲

〔 アフターコロナに備えて 〕 ~愛された育ち と 抱きしめ言葉~

 今 私たちに関係する人間科学の世界で、比較認知発達科学というアプローチから「人の心が生れる道すじ~四つの基本的事実~」が発表されています。

(1)胎児期から新生児期にかけて、ヒトの身体や行動、心のはたらき、知覚、認知機能は連続的に発達する。


(2)生後 1 年半にわたるヒトの心のはたらきの発達過程を見ると生後二ヶ月と生後九ヶ月目が二度の飛躍期である。特に九ヶ月目はヒトの心のはたらきが顕著に発達してくる。


(3)ヒトらしい心を発達させるのは、他者からの積極的な関わりを特徴とするヒト特有の養育環境である。


(4) ヒトらしい心を育くむ環境は、ヒト特有の心のはたらきによって成立している。ヒトは自分の心だけでなく次の世代のヒトの心の発達を支える「環境」としての役割も果たすよう、進化してきた動物である。

(「ヒトの発達の謎を解く」明和政子・ちくま新書(2019年)

 

 

 ヒトは胎児の頃から学習する存在であると言われています。
 特に新生児を対象に3 種類の感覚・視覚・聴覚・触覚の刺激を受けたときに生じる脳活動の中で、特に重要な発見は、触覚刺激に対する脳活動だったそうです。

 


 つまり、ヒトらしい心の発達の連続性とは私たち(社福)童心会のいう”愛された育ち と だきしめ言葉 ”のことなのです。


 自分の身体と他の個体、養育者との身体と連続的につないでいくことが必要でそれがとても大切な「人の心が生れる道すじ」だと言っているのです。

 

 だから私たちはコロナ渦で 自粛登園、家庭保育が求められた時に(社福)童心会全園で家庭、保育園、社会が” つながる運動 ”をリモートで展開してきました。


 しかし今はアフターコロナの対応が叫ばれている時代です。
 私たちの保育の世界での子どもたちや 保護者の方たちのおかれている現状をみてみますと、両親のおかれた生活環境、会社の倒産や雇用の打ち切りなどの経済的な問題は、すぐに子どもたちの養育環境に影響を与えます。
 経済の再生も以前のように戻るには3 ~4 年くらいかかるだろうと言われています。
 だから私たちはそのような時代に現れる家庭での養育環境を予測して、次のような対策を考えて見ました。


 私たち(社福)童心会には、人間科学を通して見つめた人間教育「養育・学習・ CARE (療育)」という考え方から生れた二つの Care mind (道しるべ) があります。

 

 1つ目は子どもの権利として認められている 「愛された育ち」 です。
養育=生命の保持=愛された育ち(タッチ・ケア)=子どもの権利=身体接触=応答関係=愛着形成

 生命の保持とは、身体と身体がふれあい、心と心が寄りそいあって大切にしたい、という魂がゆさぶられるような応答関係 を繰り返しながら愛着が生れる関係をいいます。

 

 2つ目は「養育者の義務」として当然果たさなければならない「だきしめ言葉」です。
養育=情緒の安定=だきしめ言葉(カンガルー・ケア)=養育者の義務=情愛的接触=応答関係=愛着形成

 

 情緒の安定とは、思いやりのある深い愛情、情愛を持ったふれあいを通して強い感動を与えられる生活を繰り返しながら深い愛着を形成することを言います。
 私たちはこうした目に見えない新型コロナウィルスと対峙した時、人間の無力(むりき)さを感じました。


こんな時だからこそ

ひとりで  生きる

人のために 生きる

みんなと  生きる

助けあって 生きる


 (社福)童心会の訓を守り続けなければいけません。
 そして私たちはこうした大きな2 つの Care Mind (道しるべ)を通して(社福)童心会の保育園一つひとつが村となって共同養育(アロマザリング)を始めなければなりません。
 今こそ”愛された子どもは強く生きられる”という言葉を信じて「愛された育ち(ふれあいと見まもり)、だきしめ言葉」の意味を噛みしめながら、未来に生きる子ども達のために歩み続けて行きませんか?


令和2年9 月 吉日
社会福祉法人 童心会
理事長 中山 勲