思いやりと生きる力

わたしを ぎゅっとして わたしを 見つめて わたしを 聞いて わたしを 呼んで

〔 今、子どもの養育環境を考える!~アフターコロナに備えて~ 〕

 私は先月(9月号)の法人だよりの中で、今私たちに関係する人間科学の比較認知発達科学というアプローチから

「人の心が生れる道すじ~四つの基本的事実~」

を学びあいました。


 その中で、私は(3)(4) 項目に書いてあった「養育環境」について書かれていた科学的見識を、保育の現場にいる実践者として再確認してみました。


(3)ヒトらしい心を発達させるのは 、他者からの積極的な関わりを特徴とする ヒト特有の養育環境である 。


(4)ヒトらしい心を育む環境は 、ヒト特有のはたらきによって成立している。 ヒトは自分の心だけでなく、次の世代のヒトの心の発達を支える「環境」としての役割も果たすよう進化してきた動物である。

(まねが育むヒトの心・明和政子/2012 年 岩波ジュニア新書)


 私は法人だより9 月号を書いて、さらに何度も何度も読み返してみて、(社福)童心会の養育環境と照らし合わせてみたとき、「ヒトらしい心を発達させるのは、ヒト特有の養育環境(3) と、次の世代のヒトの心の八つを支える『 環境 』 としての役割も果たすよう進化してきた動物である( 4) 」という考え方では足りないことに気付いたのです。

 

このように判断を迷っていたとき、奇しくも次のような新聞記事に出会いました。


『9 月 6 日に発表された国連児童基金ユニセフ)報告書は OECD経済協力開発機構)、EUの加盟国、国連などの統計を用いて分析。

 

 一定のデータが集まった38 カ国を「精神的な幸福度」「身体的健康」「学力、社会的スキル」の3 分野で指標化した。使われてたのは 2015~2019 年の統計で世界的な新型コロナウィルス流行前。 』


 その結果、日本の子どもは生活満足度の高さが「精神的な幸福度」が37 位と最低レベルでした。
 教育評論家の尾木直樹さんは日本の学校現場を「いじめ地獄・家庭内不和も原因と表現し、子どもの自己肯定感が低く、幸福感が育たないのは必然的だ」と指摘していました。


 また身体的健康では、5 ~19 歳の肥満の割合で発表していますが、日本が 14 %で 1 位でした。
(ちなみに童心会の肥満度は3 %未満。)
 最後に学力・社会的スキルでは日本は27 位。 読解 と数学力は 5 位でしたが、
「すぐに友達ができる」と答えた15 歳の割合は最下位クラスの 69 %でした。


 改めて、「ヒトの成り立ち」を考えた時、今の新しい人間科学の世界では、胎生期の28 週くらいになると視覚、聴覚、体制感覚は機能していると言われています。
 だから私は「ヒトらしい心を発達させる前に私たちが何を為すべきか」を考えてみました。


 今の新しい科学的根拠に基づく考え方では、大人を含む養育者との身体の触れ合いが促す乳児期の脳発達の重要性が叫ばれています。即ち乳児期の他者(主に養育者)との新生児からの受容的な応答関係と身体的接触が大切であり、触れ合う機会の少なさは発達予後(脳発達の感受性期)に影響するといわれています。


 また私たち(社福)童心会人間教育の根本的な理念である

「五感を刺激する0 歳からの 人間教育」

に謳われているようにヒト特有の五感を刺激する乳児との関わりの重要性も科学的に実証されているのです。
 だから私たちは改めてヒトの心のはたらきの発達とその進化的な基礎を見つめた時、比較認知発達科学からのアプローチを見直さなければなりません。
即ち

「胎生期から新生児期にかけて、ヒトの身体や行動、心のはたらき、知覚、認知機能は連続的に発達する」

というエビデンス(科学的根拠)を忘れてはならないのです。


 この意味からも不幸にして在家庭時における産後うつや育児不安から生れる”不適切 な 養育 マル ・トリートメント)”に対する保育所における新たな役割を創造しなければならないと考えました。


 だから(社福)童心会では保育だけではなく”療育( Care mind )”を目指してきたのです。
 ちょっとむずかしくなりましたが、ひと言で言うと、ヒトの心は他者と身体を触れ合わせることで発達初期の認知機能を発達促進すると明らかにされています。


 今、世の中はこのコロナ禍の中にあって育児不安や家庭内不和など不適切な 養育 マル ・トリートメント)が行われているといわれています。
 私たち(社福)童心会はこの様な社会的環境の変化を捉え、ウィズコロナ、アフターコロナの時代に備え、心の準備を怠っていません。


 (社福)童心会のいつもの訓えなのですが、保育者仲間や子育て仲間には変わらずに
”愛された育ち と だきしめ言葉”を大切に育てていきます。
 私たちの合い言葉は

「ぬくもり・ふれあい・おもいやり」

です。

コロナ禍の解決の兆しも少し見えてきたように思いますがもう少しの”ガマン”です。がんばりましょう!!

   令和2年10 月 吉日
   社会福祉法人 童心会
   理事長 中山 勲

〔 アフターコロナに備えて 〕 ~愛された育ち と 抱きしめ言葉~

 今 私たちに関係する人間科学の世界で、比較認知発達科学というアプローチから「人の心が生れる道すじ~四つの基本的事実~」が発表されています。

(1)胎児期から新生児期にかけて、ヒトの身体や行動、心のはたらき、知覚、認知機能は連続的に発達する。


(2)生後 1 年半にわたるヒトの心のはたらきの発達過程を見ると生後二ヶ月と生後九ヶ月目が二度の飛躍期である。特に九ヶ月目はヒトの心のはたらきが顕著に発達してくる。


(3)ヒトらしい心を発達させるのは、他者からの積極的な関わりを特徴とするヒト特有の養育環境である。


(4) ヒトらしい心を育くむ環境は、ヒト特有の心のはたらきによって成立している。ヒトは自分の心だけでなく次の世代のヒトの心の発達を支える「環境」としての役割も果たすよう、進化してきた動物である。

(「ヒトの発達の謎を解く」明和政子・ちくま新書(2019年)

 

 

 ヒトは胎児の頃から学習する存在であると言われています。
 特に新生児を対象に3 種類の感覚・視覚・聴覚・触覚の刺激を受けたときに生じる脳活動の中で、特に重要な発見は、触覚刺激に対する脳活動だったそうです。

 


 つまり、ヒトらしい心の発達の連続性とは私たち(社福)童心会のいう”愛された育ち と だきしめ言葉 ”のことなのです。


 自分の身体と他の個体、養育者との身体と連続的につないでいくことが必要でそれがとても大切な「人の心が生れる道すじ」だと言っているのです。

 

 だから私たちはコロナ渦で 自粛登園、家庭保育が求められた時に(社福)童心会全園で家庭、保育園、社会が” つながる運動 ”をリモートで展開してきました。


 しかし今はアフターコロナの対応が叫ばれている時代です。
 私たちの保育の世界での子どもたちや 保護者の方たちのおかれている現状をみてみますと、両親のおかれた生活環境、会社の倒産や雇用の打ち切りなどの経済的な問題は、すぐに子どもたちの養育環境に影響を与えます。
 経済の再生も以前のように戻るには3 ~4 年くらいかかるだろうと言われています。
 だから私たちはそのような時代に現れる家庭での養育環境を予測して、次のような対策を考えて見ました。


 私たち(社福)童心会には、人間科学を通して見つめた人間教育「養育・学習・ CARE (療育)」という考え方から生れた二つの Care mind (道しるべ) があります。

 

 1つ目は子どもの権利として認められている 「愛された育ち」 です。
養育=生命の保持=愛された育ち(タッチ・ケア)=子どもの権利=身体接触=応答関係=愛着形成

 生命の保持とは、身体と身体がふれあい、心と心が寄りそいあって大切にしたい、という魂がゆさぶられるような応答関係 を繰り返しながら愛着が生れる関係をいいます。

 

 2つ目は「養育者の義務」として当然果たさなければならない「だきしめ言葉」です。
養育=情緒の安定=だきしめ言葉(カンガルー・ケア)=養育者の義務=情愛的接触=応答関係=愛着形成

 

 情緒の安定とは、思いやりのある深い愛情、情愛を持ったふれあいを通して強い感動を与えられる生活を繰り返しながら深い愛着を形成することを言います。
 私たちはこうした目に見えない新型コロナウィルスと対峙した時、人間の無力(むりき)さを感じました。


こんな時だからこそ

ひとりで  生きる

人のために 生きる

みんなと  生きる

助けあって 生きる


 (社福)童心会の訓を守り続けなければいけません。
 そして私たちはこうした大きな2 つの Care Mind (道しるべ)を通して(社福)童心会の保育園一つひとつが村となって共同養育(アロマザリング)を始めなければなりません。
 今こそ”愛された子どもは強く生きられる”という言葉を信じて「愛された育ち(ふれあいと見まもり)、だきしめ言葉」の意味を噛みしめながら、未来に生きる子ども達のために歩み続けて行きませんか?


令和2年9 月 吉日
社会福祉法人 童心会
理事長 中山 勲

(社福)童心会の道しるべ ~君はヒトとしてどう生きるか~

 私たちが1973年から切り開き歩んできた「五感を刺激する 0 歳からの人間教育」は、2001年に OECD から発表された「保育白書 Starting Strong ⅠⅠ”人生の始まりこそ力強く”」の中で「乳幼児の教育とケアEarly Childhood Education and Care (略して ECEC )」を生涯学習・生涯教育として捉えていたことを知り、私たちの人間教育は確固たる自信から確信に変わりました。


(社福)童心会の訓(道しるべ)


1,信条 Our Credo〔やさしい 保育園 〕

 

保育者仲間にやさしい

子育て仲間に やさしい

子どもにやさしい

地域社会に やさしい

 

2,経営理念(哲学〔ヒトを創る 〕


ひとりで生きる

ひとのために 生きる

みんなと生きる

助けあって 生きる

 

3,保育目標


思いやり 慈悲 すべての悲しみや苦しみに寄りそう心
生きる力 智慧  実人生を生き抜く力

 

4,保育方針


〔 応答関係( Surve & Return) 〕

わたしをぎゅっとして

わたしを 聞いて

わたしを見つめて

わたしを 呼んで


5,人間としての生きる基盤


○愛された育ち子どもの権利=応答関係=愛着形成
○だきしめ言葉子どもの権利=応答関係=愛着形成

 

6,人間としての生きる心得


笑顔(朝からとびっきりの笑顔の贈り物)
挨拶(いつも相手の心に伝わるご挨拶)
思いやり(すべての悲しみや苦しみに寄り添う心)
感謝(いつもどこでもありがとうの心を忘れない)

 

7,こんなヒトに育ってほしい

 

笑顔が素敵なヒト (愛された育ち・抱きしめ言葉)

気はやさしくて (思いやり・慈悲の心)

力もち (喧嘩も強く・意欲的)

智慧もあって (意志 ・学び心・生き抜く力・GRIT)

運動大好き (忍耐力 ・我慢強い)

自分を大切にしながら (自己愛 ・チェワの心)

人のためにもお役に立てる (利他の心)

地域のために貢献し (公共心 ・みんなのために)

家族も大切にできるヒト (人間愛 ・助け合い)

そしていつもありがとうを忘れない (感謝の心)

そんなヒトにわたしはなりたい


 私たちはこうした(社福)童心会の訓(道しるべ)を理事長研修や法人内のリーダー研修、国内研修のたび毎に”声を出して呼んでみよう”と唱和を繰り返してきました。
 なぜなら私 たち 法人 の 経営理念 や 目標 ・方針を共有し、道しるべを手引きとしながら私たちの目指すべき人間教育(生涯学習 ・生涯教育) を歩むべきだと信じたからです。
 子どもたちの心と身体は”人間性豊かなより多くの人たち”との毎日の生活の中で
「ふれあいと見守り、抱きしめ言葉」
を通して 「思いやりと生きる力」 が育てられるものだと思っています。
 改めて私たちは、子どもたちが現在(いま)を最も良く生き、望ましい未来を作り出す力の基礎を培うために、時代の変化に対応した人間教育を創造し、実践していかなければなりません。


 そして子どもたち一人ひとりが、人格を持った人間としてお互いが認められ

”生まれてから死を迎えられるまでの一生”

を人間教育の場として捉え


「人間として如何に生きるべきか」を学ぶための原体験を創る

 

ことを目指しています。


みなさまのご協力を心からお願いします。

   令和2年8月吉日
   社会福祉法人 童心会
   理事長 中山 勲