H29_08【「運動機能の獲得」 ~直立二足歩行と進化~】
私は「人間教育革命、総合的人間科学との協働」の中で、「0歳からの人間教育」というテーマで、私の考え方を書いたことがあります。
生みの親・育ての親の与えられた役割の中で、「子どもは 自らの五感を駆使しながら 学び・育つものと心得るべし」と書き伝えました。
なぜなら出生直後の新生児に備わっている機能は、胎児期に学習した能力で、この基本的能力をベースにして出生後に多くの学習を行い、さまざまな認知機能を発達させていくのだ、と考えられるというのです。
(「脳科学から見る子どもの育ち」乾 敏郎(ミネルヴァ書房))
「人類進化700万年前の物語」という本の中で、「私たちだけがなぜ生き残れたのか」という問いかけがありました。
ここ180年間の発掘調査で28種の骨が発見されましたが、今まで生きのびてきたのは30万年前からの ホモ・サピエンス だけだというのです。
著者チップ・ウィルターがとりわけ熱心に紹介するのは、人間が未熟な状態で生まれてくることであります。
人類に特徴的な長い幼年時代は、生まれてすぐ立ち上がる動物などと較べて、親子で過ごす時間は極めて長い。
教育や学習に膨大な時間と手間をかけることで、より多様な環境、状況に臨機応変に対応できるようになったことが、生き残りのカギになったというのです。
私はここで、自分が歩んできた長い保育園人間教育の中で、考えを改めなければならないと感じたことがあります。
それは胎生期28週で、見ること、聞くことと、自分の顔をなでることなど、体性感覚も身についていると言われたからです。
そして生後すぐに、視覚・聴覚は20~30%の機能を持たされて生まれてくるのだそうです。
そして、生後 1年間の歩みを見つめた時、模倣活動 口を開ける、舌を出す、まばたきをする、音声模倣などが発達しながら、首がすわる、寝返りがうてるなどの各種運動機能の獲得がされていくのです。
そしてハイハイやつかまり立ち、テラスの教室での学び、そしてこれらの運動機能の獲得が養護(生命の保持と情緒の安定)につけ加えられ、「直立二足歩行と進化」 が三本の柱に入るべきであると確信しました。
「二足歩行で長距離歩けるようになった」
「両手が空いて道具を作ることができるようになり、それによって脳が発達した」
また「石が投げられるようになった」 など。 (図解 ホモ・サピエンスの歴史人類研究会編)
確かに「直立二足歩行をした人類の中で、絶滅しなかったのはホモ・サピエンスだけだ」
という事実もあります。
生後1年以内で起こる、各種運動機能の獲得と移動能力、そしてそれに伴う五感への刺激と、環境の変容に伴う新しい人間を育ててきたことを、認知神経科学の発達がエビデンス(科学的根拠)を実証してくれたのですから、「幼児教育は3歳から始まる」などという前近代的教育観から脱皮した、新しい考え方「0歳から始まる人間教育(保育)の創造」に取り組まなければなりません。
またこれは私の長い保育活動の中でも実証されており、この世界にいる私たちこそが認識しなければならない、重要課題であると確信いたしております。
改めて私たちは、未成熟なまま人間として生まれた意味を考えた時、身近な自然、身近な事象、多様な環境に対応できる知恵の獲得につなげてきたのだから、それらがほとんど失われてしまった今、この社会で保育所保育は、どのような役割を持たされているのでしょうか。
新しい時代を迎える足音が聞こえてきます。
改めて私たちの果たすべき使命を考えるべき時代はきています!!
平成 29 年 8月 吉日
社会福祉法人 童心会
理事長 中山 勲